株式会社Livune

2026/8/5 AIエージェント活用

AIに任せる業務の選び方|社内業務の棚卸しから最初の1業務を決める手順

AIに任せる業務の選び方 ── 社内業務の棚卸しから最初の1業務を決めるまでの実践ガイド

「アカウントは配った。使い方の説明もした。それでも『で、どの業務を任せるのか』が決まらない」──生成 AI の導入は、この段階で止まることが少なくありません。原因は担当者の意欲でも情報不足でもなく、業務を丸ごとの単位で見ているから候補が出てこないことにあります。「見積書の作成」を 1 つの仕事として眺めると、顧客ごとの事情や判断が絡んで見えて任せられません。しかし見積書の作成は、実際には 6 つほどの工程の束です。工程まで割ってから見ると、判断が要る工程はそのうち 1〜2 個で、残りは渡せる工程だと分かります。この記事では、業務を工程に割る棚卸しの手順、任せる工程を選ぶ 3 条件、渡してはいけない工程の線引き、そして最初の 1 業務を動かす 4 ステップを、順番に解説します。

この記事の要点
  • 「うちには任せられる業務がない」の原因は業務を丸ごと見ていること── 業務は工程の束で、工程単位なら候補は必ず出てくる
  • 棚卸しは 4 つの型で割る ── 集める / 形にする / 確認する / 届ける・記録する。判断が絡むのは一部の工程だけだと見えてくる
  • 選ぶ基準は 3 つ ── 繰り返す / 判断が要らない(基準が言語化できる)/ やり直しが効く。最初の 1 業務は効果より回しやすさで選ぶ
  • 渡さない工程を先に決める。また、任せると人側に確認の工程が増えるため「増えた確認を含めて負荷が下がるか」で判断する
STEP 1
工程に割る
業務を 4 つの型で分解
STEP 2
3 条件で選ぶ
頻度と充足数で優先順位
STEP 3
渡さない工程を決める
判断・金銭・約束は人に残す
STEP 4
1 業務を回す
手順書を育てて型にする

「うちには AI に任せられる業務がない」が起きる理由

この言葉は、AI に消極的な会社から出てくるとは限りません。むしろ真面目に検討した人ほど口にします。理由は単純で、業務を丸ごとの単位で見ると、どの業務にも必ず判断が含まれているからです。判断が含まれている以上任せられない──そう結論するのは、論理としては正しいのです。単位が大きすぎるだけです。

例として「見積書の作成」を工程に割ってみます。①顧客の要望と条件を確認する ②過去の類似案件の内容と金額を探す ③原価と工数を算出する ④見積書の書式に落とす ⑤金額と条件の妥当性を判断する ⑥社内承認を取り、顧客へ送付する。この 6 工程のうち、人の判断が本質的に必要なのは ⑤ と ⑥ です。①②④ は情報を集めて形にする作業で、③ も算出のルールが決まっていれば作業です。つまり「判断が含まれる業務」の中に、判断が含まれない工程がいくつも同居しています

「うちの業務は特殊だから」という感覚も同じ構造です。特殊なのはたいてい判断の中身です。その判断のために情報を集める工程、決まった書式に落とす工程、記録する工程は、業種が違っても似た形をしています。特殊性は判断に集まり、その周辺には汎用的な作業が広がっている──この見立てに立つと、探す場所が変わります。

生成 AI が社内に定着しない理由のひとつが「目的を決めずに配っている」ことであり、処方箋の一手目が「業務を 1 つ選ぶ」ことである点は「生成AIが社内に定着しない理由と、定着させる進め方」で整理しました。ただ、その「1 つ選ぶ」がそもそもの難所です。本記事はその選ぶ作業を、手順のレベルまで掘り下げます。

業務を工程に割る ── 棚卸しの手順

1 つの業務を集める・形にする・確認する・届けるという 4 つの工程に分解して棚卸しするイメージ

棚卸しは表計算ソフト 1 枚で足ります。専用のツールも、コンサルタントの介在も要りません。やることは次の 3 つです。

  • 1〜2 週間分の業務を書き出す ── 自分やチームが実際にやった仕事を、思い出せる粒度で並べます。20〜30 行あれば十分です。網羅を目指すと着手が遅れるので、まず思い出せるものから書きます。
  • 各業務を 4 つの型で工程に割る ── 後述の「集める / 形にする / 確認する / 届ける・記録する」に当てはめて分解します。1 業務あたり 4〜7 工程が目安です。
  • 工程ごとに頻度と 1 回あたりの時間を書く ── 正確さは要りません。「週 1 回・30 分」程度の粗さで十分です。この 2 列が、次のセクションで優先順位を決める材料になります。

工程を割るときの 4 つの型は、次のように捉えます。集めるは、情報を探す・読む・転記する工程です。形にするは、文章・表・資料・データに落とす工程です。確認するは、数字の整合やルールとの照合をする工程です。届ける・記録するは、送る・保存する・台帳に書く工程です。ほとんどの事務作業は、この 4 つの繰り返しで構成されています。

業務集める形にする確認する届ける・記録する
見積書の作成要望の整理・過去案件の参照書式への落とし込み金額と条件の妥当性(人)社内承認・顧客送付(人)
月次の経費精算領収書の読み取り・費目の判定一覧表・精算書の作成合計と証憑の照合申請・支払いの実行(人)
週次の定例資料各担当の進捗・議事メモの収集進捗表と論点リストの作成事実関係の確認(人)資料の配布・記録の保存

粒度に迷ったら、「別の人に頼めるか」で決めるのが実用的です。「この資料の数字を先月分と突き合わせておいて」と頼めるなら、それは 1 工程です。1 工程が 5〜30 分の作業になるくらいが扱いやすい粒度です。

ここで 1 つ注意があります。書き出している最中に「これは AI には無理だろう」と判定しないことです。棚卸しと選定を同時にやると、思い込みで候補が消えます。この段階の仕事は「見えるようにする」ことだけで、選ぶのは次のセクションの 3 条件に任せてください。判定を分けるだけで、候補の数がはっきり変わります。

任せる工程を選ぶ 3 条件

繰り返す・判断が要らない・やり直しが効くという 3 つの条件で任せる工程を選ぶイメージ

割り出した工程から、渡す候補を選びます。基準は 3 つです。3 つとも満たす工程が、最初に任せるべき工程です。

01
繰り返す ── 同じ形で何度も発生するか

月に 1 回以上、同じ形で発生する工程を選びます。任せるには手順を言語化する初期コストがかかるため、頻度がなければ回収できません。逆に、日次・週次で回っている工程は、たとえ 1 回 10 分でも十分な候補になります。年に 1 回の作業は、価値が低いのではなく順番が後だと考えてください。

02
判断が要らない ── 判断の基準が言語化できるか

ここが誤解されやすい条件です。「判断が要らない」とは頭を使わない単純作業のことではなく、迷ったときの答えが文書や前例の中にあり、基準を言葉で書けることを指します。「この費目は交際費か会議費か」は判断のようですが、社内の基準が書けるなら渡せる工程です。逆に「この取引を受けるべきか」は基準が書けないので人の仕事です。書けるかどうかで線を引きます。

03
やり直しが効く ── 間違いに気づいてから直せるか

出てきた成果物を人が見て、直せば済む工程を選びます。下書き・社内向け資料・提出前の中間成果物は理想的な候補です。逆に、送信・支払い・公開のように実行した瞬間に外へ出てしまう工程は、やり直しが効かないため渡しません。同じ業務の中でも「準備までは渡す・実行は人」と工程で切れるのが、工程単位で見ることの利点です。

3 条件と頻度を組み合わせると、優先順位はほぼ機械的に決まります。

充足数頻度扱い
3 条件すべて日次・週次最優先。ここから 1 つ選んで着手する
3 条件すべて月次次の候補。最初の 1 つが回ったら着手する
2 条件問わず不足している条件を設計で補えるか検討する(基準の言語化・工程の分割)
1 条件以下問わず今は見送る。人の仕事として残す判断も含めて記録に残す

もう 1 つ、選ぶときの現実的な助言があります。最初の 1 業務は「効果が大きい」より「回しやすい」で選ぶことです。効果の最大化を狙うと、たいていもっとも複雑な業務に当たり、初回で難所に突っ込んで止まります。1 つ回った後は社内の目も変わり、次の候補は自然と出てきます。最初は完走することが成果です。

渡さない工程を先に決める

最終判断・金銭の実行・顧客への約束・法令の解釈などを人の工程として残す線引きのイメージ

選ぶ作業と同じくらい大事なのが、渡さない工程を先に決めておくことです。線を先に引いておくと、任せる範囲を広げるときに毎回悩まなくなります。次の 5 つは、人の工程として残すのが基本です。

  • 最終判断 ── 採用の合否、取引を受けるかどうか、方針の決定。基準が書けないからこそ人が決める工程です。
  • 金銭の実行 ── 支払い、請求書の発行と送付、精算の確定。準備までは渡せますが、実行のボタンは人が押します。
  • 顧客への約束 ── 金額・期日・特例対応の確約。会社としての意思表示であり、下書きまでが AI の範囲です。
  • 法令・契約の解釈 ── 条文や契約条項の当てはめ。調べて整理するところまでは渡せますが、解釈の採用は人が引き受けます。
  • 一次情報の真偽の確認 ── 数値や出典が実在するかの最終確認。裏取りの作業は渡せても、「これで出す」と決める工程は人に残します。

当社自身、販促物の生成から経理のドラフト、記事の作成までを AI エージェントに任せていますが、すべての成果物に人の承認を最後に挟む運用を前提にしています。何をどこまで任せているかの具体例は「Claude Code でできること|非エンジニアの業務でどこまで使えるか」にまとめました。線引きの実例として読んでいただけます。

ここで、選定の段階で知っておくべき弱点を正直に書きます。工程を AI に渡すと、人側には「確認する」工程が増えます。渡す前より工程の数が 1 つ増えることもあります。だから判断すべきは「その工程が消えるか」ではなく、増えた確認工程を含めて、通しの時間と負荷が下がるかです。

この判定にはコツがあります。確認が「読んで頷くだけ」で済んでいれば得です。逆に「一から検算し直している」なら、それは渡し方が足りていないサインで、AI の能力の問題ではありません。手順の与え方(何を根拠にすべきか・出力の形式・チェック項目)が不足していると、確認する側は毎回全部を疑う必要が出ます。だからこそ、渡す工程は確認が軽くなる形に設計することが要点になります。出力の形式を固定する、判断の根拠を併記させる、見るべきチェック項目を先に決めておく──この 3 つで確認は目視レベルまで軽くなります。

最初の 1 業務を動かす 4 ステップ

候補の絞り込みから手順書の作成・確認点の設定・2 週間の試行までを 4 ステップで進めるイメージ

選定が終わったら、実際に動かします。ここも段取りは単純で、2 週間あれば 1 周します。

ステップ 1: 候補を 3 つに絞り、1 つ選ぶ

優先順位の表から上位 3 つを取り、その中から 1 つを選びます。判断に迷ったら、自分自身が担当している業務を選ぶのが確実です。他人の業務から始めると、手順の言語化の段階で「本人に聞かないと分からない」が発生して止まります。自分の業務なら、手順も例外も頭に入っているため、そのまま書き出せます。

ステップ 2: 手順を文章にして渡す

選んだ工程について、①手順 ②判断の基準 ③やってはいけないこと ④出力の形 を文章にします。粒度は新しく入った人に渡す業務マニュアルと同じで構いません。ここで書いた文章が、この取り組みの本当の資産になります。ツールを乗り換えても、担当者が変わっても、この文章は残って効き続けるためです。逆に、文章化を飛ばして毎回口頭で指示していると、品質が指示者の調子に左右され、他の人が同じことをできません。

ステップ 3: 人の確認点を決める

どの工程の出力を、誰が、何を見て確認するかを決めます。チェック項目は3 つ以内に絞るのが実用的です。項目が多いと確認が重くなり、結果として「自分でやった方が早い」に戻ります。前のセクションで触れた「確認が軽くなる設計」を、ここで具体的な項目に落とします。

ステップ 4: 2 週間回して型を直す

実際に運用し、うまくいかなかった点を記録します。ここで直すのは AI の設定ではなく手順書です。「また同じ間違いをした」は、ほぼ例外なく手順書に書いていないことが原因です。禁止事項を 1 行足す、判断基準の例を 1 つ増やす──この積み重ねで出力は安定します。2 週間で「毎回同じ品質で出る」状態まで来れば、その工程は任せ切って構いません。

工程に割ってから組み立てると何が変わるのかは、実例で見た方が早いかもしれません。当社が販促チラシの生成を仕組みにした過程は「生成AIで販促チラシを”一撃”で作る仕組みを自作した話」で手順まで公開しています。「AI に丸投げでは実用品質にならない」という壁を、工程の分解と手順の固定で越えた例です。

なお、AI に渡す手順書に何をどう書くか(判断基準の書き方・例示の入れ方・禁止事項の粒度)は、それ自体が独立したテーマです。本記事では「新しく入った人に渡すマニュアルと同じ粒度で」という原則までにとどめ、手順書の書き方は別記事で詳しく扱う予定です。

選んだ後 ── 型にして横に広げる

1 業務が回り始めると、視界が変わります。他の業務にも同じ形の工程があることに気づくためです。ここで横展開は業務単位ではなく工程単位で行うのが効率的です。「過去の記録を探して要点を並べる」工程が 1 つ回ったなら、その型は別の業務の同じ工程にほぼそのまま使えます。業務ごとに一から作り直す必要はありません。

もう 1 つ決めておきたいのが、手順書を更新する担当と頻度です。使う中で見つかった改善が個人の手元に溜まると、担当が変わったときに振り出しに戻ります。更新の担当が置かれているかどうかが、半年後の差になります。定着の設計全体については「生成AIが社内に定着しない理由と、定着させる進め方」で 4 つの観点にまとめています。

まず 1 業務、通しで動かす
どの工程を任せるかの見極めから伴走します

Livune は、この記事の手順を自社の日常業務で毎日回している AI 開発・DX 支援の会社です。業務の棚卸し、渡す工程の選定、手順書づくり、人の確認点の設計まで、実践ベースでご一緒します。まずは 1 業務が通しで回る状態を目標にします。

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よくある質問

工程はどのくらいの粒度で割ればよいですか?

「別の人に一言で頼めるか」を目安にしてください。「先月分と突き合わせておいて」で伝わるなら 1 工程です。時間で言えば 1 工程 5〜30 分くらいが扱いやすい粒度です。細かく割りすぎると管理が煩雑になり、粗すぎると判断と作業が混ざって選べなくなります。迷ったら少し粗めに割り、選定の段階で判断が混ざっていると気づいたときに、そこだけ二分するのが実用的です。

属人的な業務は、そもそも選べないのではないでしょうか?

属人的というのは多くの場合、判断の基準が言語化されていない状態を指します。基準そのものが存在しないわけではなく、担当者の頭の中にあるだけです。棚卸しと手順書づくりの過程でその基準が文章になれば、渡せる工程に変わります。そして基準が文章になること自体が、担当者が不在でも回る体制への一歩です。属人的な業務ほど、この作業の副産物が大きいと考えてください。

確認の手間が増えるなら、結局楽にならないのではないですか?

確認の工程は実際に増えます。判断すべきは「増えた確認を含めて通しの負荷が下がるか」です。目安は、確認が「読んで頷くだけ」で済んでいるかどうか。一から検算し直している状態なら、それは渡し方(手順・出力形式・チェック項目の指定)が足りていないサインなので、手順書を直す余地があります。出力の形を固定し、根拠を併記させ、見る項目を 3 つ以内に絞ると、確認は目視レベルまで軽くなります。

最初の 1 業務は、どのくらいの期間で続けるかを判断すべきですか?

2 週間から 1 ヶ月を目安にしてください。判断材料としておすすめするのは、削減できた時間よりも「手順書が育ったか」「毎回同じ品質で出るか」の 2 点です。この 2 つが満たされていれば、時間の効果は運用を続けるうちについてきます。逆に、毎回指示の出し方を変えて何とか成立している状態なら、対象の工程が大きすぎるか、判断が混ざっている可能性が高いので、工程の割り直しに戻るのが早道です。