
入電数の分析が失敗するとき、つまずいている場所はたいてい集計でも施策でもありません。その手前の「分類」です。同じ電話に、Aさんは「手続き」、Bさんは「料金・契約」とラベルを付けている──この状態で件数を集計しても、数字は現実を映しません。そして重要なのは、分類表づくりが「正しい分類を探す」作業ではないということです。目指すのは、誰が付けても同じラベルになる状態をつくること。分類の価値は網羅性ではなく再現性で決まります。この記事では、集計がブレない分類表を実ログから作る 4 ステップ、設計の原則 5 つ、そして分類を施策の優先順位に直結させる第 2 軸まで、定義の書き方の実例つきで解説します。
- 分類の価値は網羅性ではなく再現性 ── 誰が付けても同じラベルになるかで決まる。ブレた分類の上の集計は、施策判断にも効果測定にも使えない
- 分類表は会議室(頭の中)で考えず、直近の実ログ 50〜100 件から作る(書き出す → 束ねる → 定義を書く → 2 人で試す、の 4 ステップ)
- 各分類には「基準 1 行+典型例+境界例」の定義を書く ── 定義のないラベルは必ずブレる。ブレは境界で起きる
- 件数の軸に「自己解決できたはずか」の第 2 軸を足すと、分類が削減施策の優先順位マップに変わる
分類がブレると、分析はどこで壊れるのか

コールリーズン分類とは、入電・問い合わせの 1 件ずつに「顧客は何をしに来たのか」のラベルを付けるための分類表のことです。入電数を分析して削減につなげる工程の中で、この分類は集計と施策のすべてが載る土台になります。分析の 5 ステップ全体(記録 → 分類 → 上位特定 → 施策 → 効果測定)は「入電数を分析して削減につなげる5ステップ|コールリーズン分析の実務」で解説しました。本記事はそのステップ 2「用件で分類する」を、1 本の記事として深掘りするものです。
ブレの正体を具体例で見てみます。「引っ越したので住所を変えたい。ついでに請求書の宛名も直してほしい」という電話に、Aさんは「住所変更(手続き)」、Bさんは「請求関連(料金・契約)」とラベルを付けたとします。どちらも間違いではありません。しかし集計上は別の用件としてカウントされ、月をまたぐと今度は同じ人でも付け方が揺れます。こうなると、集計の増減が「現実の変化」なのか「付け方の変化」なのか、誰にも区別できなくなります。どの用件が多いかの優先順位も、施策を打った後の効果測定も、その集計の上に載っているため、土台のブレは分析の全工程に波及します。
そして、ブレやすい分類表が生まれる場所は決まっています。会議室です。実際の問い合わせを見ずに、頭の中の想定や組織図(営業部宛・サポート宛・経理宛……)から分類を起こすと、顧客の実際の言葉と噛み合わない表ができあがります。現場は 1 件ごとに「これはどこに入れるんだ?」と迷い、迷った分だけ付け方が割れる。分類表づくりの出発点は、想定ではなく実ログです。次のセクションで、その作り方を 4 ステップに分けて説明します。
分類表を作る 4 ステップ ── 実ログから作る

用意するものは、直近の問い合わせの記録(用件の一言メモ)と表計算ソフトだけです。付箋と壁でも構いません。半日あれば初版まで作れます。
ステップ 1: 直近の実ログを 50〜100 件書き出す
直近 2 週間〜1 ヶ月の問い合わせから、用件メモを 50〜100 件、1 行ずつ一覧にします。通話録音の文字起こしのような立派な材料は不要で、「受電直後に残した一言メモ」で十分です。記録がまだない場合は、今日から「受電日時・用件の一言メモ・対応時間の目安」の 3 点を 1 行で残す運用を始めてください(記録の揃え方は元記事のステップ 1 で述べたとおりです)。ここで大事なのは、誰かの記憶や「多い気がする」ではなく、書かれた実物を材料にすることです。記憶から作った分類は、記憶の偏りをそのまま引き継ぎます。
ステップ 2: 似た用件を束ねて、仮ラベルを付ける
書き出した 1 行メモを、似たもの同士で束ねていきます。束ねる軸は 1 つに固定します──「顧客は何をしに来たのか」です。使っている商品が何か、どの部署の管轄か、ではありません。束が 6〜8 個+「その他」に収まるくらいが初版の目安です。この時点のラベル名は「変更・解約系」「進捗を知りたい系」のような仮の名前で構いません。名前の推敲より、束の切れ目が実ログと合っていることのほうがずっと重要です。
ステップ 3: 各ラベルに「基準 1 行+典型例+境界例」の定義を書く
ここが分類表づくりの本体です。ラベル名だけの分類表は、作った本人以外には運用できません。各分類に、判定基準を 1 行、典型例を 1 つ、そして間違えやすい境界例を 1 つ書きます。
なぜ境界例まで書くのか。ブレは分類の中心ではなく、境界で起きるからです。「状況確認」の典型例で迷う人はいません。迷うのは、手続きと状況確認の間、料金と手続きの間といった境目の 1 件です。その境目にあらかじめ線を引いておくことが、「誰が付けても同じになる」状態の実装そのものです。冒頭の「住所変更ついでに請求書の宛名も」のような複合の電話も、「主目的(その電話をかけた一番の理由)に付ける」と決めて境界例に書いておけば、もう割れません。
ステップ 4: 2 人で独立に付けて、ズレた件で表を直す
初版ができたら、運用開始の前に小さなテストをします。同じ 30 件ほどの実ログに、2 人が相談せず独立にラベルを付け、結果を突き合わせます。ズレた件が出たら、それは付けた人の能力の問題ではなく、表の定義の欠陥です。どちらの解釈も成り立ってしまう書き方だった、ということなので、その件を境界例として定義に書き足します。数件のズレを潰すだけで、表の精度は目に見えて上がります。突き合わせて大半が一致するようになったら、運用開始の合図です。
設計の原則 5 つ ── 迷わない分類表の条件
4 ステップで作った表を、崩れにくくするための設計原則を 5 つ挙げます。作るときのチェックリストとしても、既にある分類表の点検にも使えます。
上限を決める基準は「受電した本人が、対応直後にその場で迷わず選べるか」です。30 も 40 もある分類表は、選ぶ時点で運任せになり、集計の信頼性が数と引き換えに失われます。細かい内訳がどうしても必要なら、大分類は 10 以内に保ったまま、件数の多い分類にだけ小分類を 2 段目として足してください。全分類を一律に細かくする必要はありません。
組織図・担当部署・商品ラインで分類を切ると、顧客の 1 本の電話が社内の複数の箱にまたがり、必ず迷いが生まれます。顧客から見た目的──手続きをしたい、使い方を知りたい、進捗を確かめたい──で切れば、1 本の電話は 1 つの目的に定まりやすくなります。分類表は社内の地図ではなく、顧客の行動の地図です。
「両方当てはまるから両方付ける」を許すと、ラベルの合計件数が入電数と合わなくなり、割合の議論ができなくなります。1 件に付けるラベルは 1 つ。複数の用件が混ざった電話は「主目的に付ける」とルール化し、よく出る組み合わせは境界例として定義に書いておきます。集計の単純さは、分析を続けるための体力です。
すべての電話を既存分類に押し込もうとすると、無理なラベル付けが増えて表全体が濁ります。迷ったら「その他+一言メモ」で先に進んでよい、と最初に決めてください。そして月次で「その他」の中身を眺め、同じ種類のメモが繰り返し出ていたら、それを新しい分類に昇格させます。「その他」は分類表が現実に合わせて育つための入口です。ただし、その他が最大勢力になったら表の切り方自体を見直すサインです。
分類表は育てるものですが、変えるタイミングは選びます。月の途中で定義を変えると、その月の集計は前半と後半で別の物差しになり、月次比較が壊れます。変更は月初にまとめて反映し、「いつ・何を変えたか」を分類表の端に 1 行残してください。効果測定は「同じ物差しで測り続けること」が前提です。施策の後に集計が動いたとき、変更履歴があれば「物差しを変えたせいではない」と言い切れます。
「自己解決できたはずか」の第 2 軸を足す ── 分類を施策に直結させる

コールリーズンの 1 軸だけで集計すると、分かるのは「何が多いか」までです。ここで止まると、正直に言えば電話はまだ 1 本も減っていません。分類を施策につなげるために、ラベル付けの際にもう 1 つだけ列を足すことをおすすめします──「この用件は、顧客が電話の前に自分で解決できたはずか」の 2 択です。Web サイトや FAQ、チャットボットで答えられる内容だったなら「できたはず」、個別の契約状況の判断やクレーム対応のように人にしかできない内容なら「人が必要」。この 2 軸を掛け合わせると、分類表がそのまま削減余地のマップになります。
| 組み合わせ | 意味 | 動き方 |
|---|---|---|
| 件数 多 × 自己解決できたはず | 削減余地がもっとも大きい層 | 最優先で施策を当てる(FAQ 改善・AI チャットボット・先回り通知) |
| 件数 多 × 人が必要 | 削減対象ではなく品質勝負の層 | 減らそうとしない。浮いた対応時間の再配分先として設計する |
| 件数 少 × 自己解決できたはず | 余地はあるが後回しでよい層 | 上位を潰した後に着手。急がない |
| 件数 少 × 人が必要 | 現状維持でよい層 | 施策も分析もいったん不要 |
見てのとおり、動くべき場所は左上の 1 マスに絞られます。ここに何の施策を当てるかは、用件の性質ごとに定石があります。施策 7 つの全体像は「コールセンターの問い合わせを削減する方法【完全ガイド】」に、電話チャネルに絞った今週から打てる実務は「電話問い合わせを減らす方法7選」に整理しているので、マップができたらそちらへ進んでください。
運用でブレさせない仕組み ── 表は 1 枚、直すのは表

分類表は、作った後の運用でもブレます。仕組みで防ぐポイントは 4 つです。
- ①迷いをその場で悩ませない ── 受電直後の 30 秒で判定できない件を、現場に悩ませる設計は続きません。「迷ったら、その他+一言メモ」で先に進み、週次か月次に 1 人がまとめて裁きます。そして裁いた結果は、本人への指導ではなく表の定義への追記で返します。迷いが出たということは、表に境界例が足りなかったということ。間違いは人ではなく表が拾う──この運用にすると、現場の心理的負担が消え、記録の習慣が守られます。
- ②表は 1 枚・全員が見える場所・更新担当は 1 人 ── 各自が手元にコピーを持って個別にメモを足し始めると、数週間で「人によって違う表」に逆戻りします。分類表は共有の 1 枚だけを正とし、定義に書き足せるのは更新担当 1 人に絞ります。変更は月初(原則 05)。この 3 点セットで、表は 1 つの物差しであり続けます。
- ③引き継ぎ・教育の資料を兼ねさせる ── 基準と実例まで書かれた分類表は、じつは「うちの会社にはどんな問い合わせが、なぜ来るのか」の最短の教材です。新しく入ったメンバーへの説明が、先輩の記憶頼みから 1 枚の表に変わります。分類表を整えるコストは、集計の信頼性と引き継ぎ資料の二重の役割で回収できます。
- ④チャネルが増えても、同じ表で付ける ── 電話・メール・チャットでそれぞれ別の分類表を作ると、チャネル間の比較ができなくなります。用件の分類表は 1 つに統一し、チャネルは別の列として記録してください。「この用件はチャットに移り、この用件はまだ電話で来ている」が同じ物差しで見えるようになり、チャネル設計の判断材料になります。
最後に、運用の負担そのものを軽くする話をします。分類の手間の大半は、「電話の内容は音声で消えてしまうため、人がメモに起こして初めて材料になる」ことから来ています。AI チャットボットを導入すると、この前提が変わります。問い合わせが最初からテキストのログとして残るため、分類の材料が対応者の記憶と 1 行メモではなく、会話の実物になるのです。当社の提供する AI チャットボット「コルット」も、どの問い合わせがコール数を増やしているかを可視化する分析機能を備えており、「測って、減らす」の月次サイクルを記録の段階から支えます。
「コルット」は 24 時間の AI 自動応答に加え、コール原因の可視化・分析機能を備えた AI チャットボットです。Business プランでは問い合わせ分析ダッシュボード・コール削減効果レポート・月次の改善提案まで提供し、この記事の分類 → 施策 → 効果測定のサイクルを伴走します。
コルットを無料で試してみる →よくある質問
大分類で 10 以内、初版は 6〜8+「その他」をおすすめします。基準は「受電した本人が対応直後にその場で迷わず選べるか」です。分析の細かさが足りないと感じたら、全体を細かくするのではなく、件数の多い分類にだけ小分類を足してください。細かさはコストなので、必要な場所にだけ払うのが長続きのコツです。
今日から「受電日時・用件の一言メモ・対応時間の目安」を 1 行で残す記録を始めてください。2 週間分たまれば仮の分類表は作れます。分類の優先順位を確定する前に 1 ヶ月分は見ることをおすすめしますが、記録開始を待つ必要はありません──ステップ 1〜3 の設計作業は、たまりつつあるログで並行して進められます。
分けないことをおすすめします。用件の分類表は全チャネル共通の 1 つにし、チャネルは記録の別の列として持ちます。分けてしまうと「FAQ を改善したら、この用件の電話が減ってチャットに移った」というチャネルをまたぐ変化が追えなくなります。同じ物差しで全チャネルを測れることが、共通表の最大の利点です。
変更自体は健全です(表は育てるものです)。守るのはタイミングと記録の 2 点だけ──変更は月初にまとめて反映し、「いつ・何を変えたか」を表の端に 1 行残します。過去の集計を新しい分類で付け直す必要はありません。境目が記録されていれば、「この月から物差しが変わった」と踏まえて比較できます。月の途中の変更だけは、集計が壊れるので避けてください。